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東京地方裁判所 平成8年(わ)3454号 判決 1996年12月26日

本店所在地

東京都新宿区新宿一丁目二番一号

株式会社ミクニ

(右代表者代表取締役 望月恭二)

本籍

広島市中区羽衣町三一五番地の一

住居

長野県小県郡東部町大字新張九五番地一

会社役員

望月恭二

昭和九年九月二六日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官藤原光秀弁護人松田圭之(主任)、金城勇二各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社ミクニを罰金三〇〇〇万円に、被告人望月恭二を懲役一年に処する。

被告人望月恭二に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社ミクニ(以下「被告会社」という)は、東京都新宿区新宿一丁目二番一号に本店を置き、住宅用建築金物の製造等を目的とする資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、被告人望月恭二(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、仕入れ及び外注加工費を架空に計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成三年九月一日から平成四年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五億五五七三万四六九三円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年一一月二日、東京都新宿区三栄町二四番地所在の所轄四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四億二八二二万一九九六円で、これに対する法人税額が一億五八五六万六二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第一九九六号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二億六三八万三六〇〇円と右申告税額との差額四七八一万七四〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成四年九月一日から平成五年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億七六二四万九六一四円(別紙2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年一〇月二九日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億五四八三万六八五円で、これに対する法人税額が五五五三万六三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第一九九六号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億一〇六万八四〇〇円と右申告税額との差額四五五三万二一〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成五年九月一日から平成六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八〇五五万二一〇七円(別紙3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成六年五月三〇日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三五八一万三六二四円で、これに対する法人税額が一二三三万七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第一九九六号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二九一〇万七八〇〇円と右申告税額との差額一六七七万七一〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

〔括弧内の甲乙の番号は、検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を示す〕

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書四通(乙一、二、三、五)

一  大蔵事務官作成の外注加工費調査書(甲四)、新規取得土地等に係る負債の利子の損金不算入額調査書(甲九)及び領置てん末書(甲二九)

一  検察事務官作成の捜査報告書八通(甲三、五、一一ないし一五、二七)

一  斉藤新一の検察官に対する供述調書二通(甲一六、一七)

一  寺島千加男の検察官に対する供述調書(甲一八)

一  松本京子の検察官に対する供述調書二通(甲一九、二〇)

一  望月健二郎の検察官に対する供述調書五通(甲二二ないし二六)

一  四谷税務署長作成の証拠品提出書(甲二八)

一  東京法務局登記官作成の登記簿謄本(乙七)及び閉鎖登記簿謄本二通(乙八、九)

判示第一、第三の事実につき

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲一〇)

判示第二、第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の期首棚卸高調査書(甲一)

判示第一の事実につき

一  押収してある法人税の確定申告書一袋(平成八年押第一九九六号の1)

判示第二の事実につき

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙四)

一  松本京子の検察官に対する供述調書(甲二一)

一  大蔵事務官作成の支払利息割引料調査書(甲六)及び公租公課調査書(甲七)

一  押収してある法人税の確定申告書一袋(平成八年押第一九九六号の2)

判示第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の材料仕入高調査書(甲二)及び雑費調査書(甲八)

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成八年押第一九九六号の3)

一  押収してある事業年度の変更・異動届出書一袋(平成八年押第一九九六号の4)

(適用法令)

罰条

〔ただし、刑法は、いずれも、平成七年法律第九一号による改正前のものを指す〕

被告会社につき 判示各事実につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)

被告人につき 判示各所為につき、いずれも法人税法一五九条一項

刑種の選択

被告人につき 懲役刑

併合罪の処理

被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項(各罪の罰金額を合算)

被告人につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

刑の執行猶予

被告人につき 刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、東洋エクステリア株式会社を主力取引先として、フェンス、門扉、車庫などの住宅用建築金物製品製造等を営む被告会社の代表者である被告人が、将来の受注減少等に備えて従業員の給料数か月分相当の約三億円の確保、蓄財を企て、外注加工費及び仕入高の架空計上、雑収入の一部を除外するなどして、過少申告により所得を少なくみせかけ、合計約一億一〇一二万円余の法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率は、通算約三二・七パーセントに達している。

右犯行の動機、脱税額、ほ脱率に、脱税工作態様が巧妙かつ計画的で多様であることや家族や部下にも右脱税行為を指示、加担させていることなどをも勘案すると、被告人の弁解どおりその犯行の遠因に顧問税理士の内容留保に関する説明に適切を欠き被告人の租税知識に誤解が存したこと、被告人が被告会社の経営に辛酸し、内部留保の必要を痛感した実体験が窺われることを考慮しても、一人被告会社のみが公正な税金負担を免れて良い道理は無く、その犯情は悪質で格別酌むべき点はない。

また、被告人の年齢、社会的地位、罰金前科三犯等が見受けられることに照らすと、その刑事責任を軽く考えることは相当でない。

ただ、被告人には、同種前科がなく、一介の板金工から身を起こし、自力で被告会社を設立して今日の地位を築いた他、現に被告会社及びその海外(タイ王国)の子会社等の代表取締役を兼務し、被告会社の一五〇人の従業員等は、被告人を余人をもって替え難い人材として、その寛大な刑を裁判所に嘆願している。

また、被告人らは、本件発覚後は捜査に協力したほか、被告会社の税理士を交代するなどの改善策を講じて真摯な反省の態度を示し、被告会社は、本件三事業年度分の税金等を修正申告し、法人税の本税、重加算税、延滞税等のすべてを完納している事情も認められる。

当裁判所は、以上、被告人らの一切の諸情状を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金三五〇〇万円、被告人・懲役一年)

(裁判官 大谷吉史)

平成六年(う)第一五一四号

控訴趣意書

被告人 富家あゆ美

右の者に対する法人税法違反被告事件について、控訴の趣意は左記のとおりである。

平成七年二月七日

主任弁護人 山田秀雄

弁護人 松原健滋

弁護人 安冨潔

東京高等裁判所(刑事一部) 御中

第一 量刑不当

一 被告人に対する罰金刑の併科について

1 被告人には中野海運株式会社代表取締役である中野義博に対する平成六年五月七日付金銭準消費貸借契約に基づく金二九七九万一一八六円の債権が存在する(弁護人申請証拠関係カード番号1)ものの、債務者中野義博からの第一回分返済金に加えた合計五〇〇万円の返済は平成六年一〇月六日に東京国税局に納付しており、その後の返済計画は返済計画表にしたがって返済される予定である(記録四七の六丁)。また、その他の債権についても回収は事実上不可能である(記録四七の七表)。さらに、被告人の収入は、現在、中野海運ビルの管理費二〇万円及び東和東陽町コープ一〇二号室賃貸料一〇万円とで合計三〇万円にすぎない(記録四七の五丁裏)。したがって、罰金一二〇〇万円を完納することは不可能である。

そこで、原判決によれば、被告人は、「二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置」されることになるが、罰金一二〇〇万円であるから、結局、六〇日の労役場留置ということになる。

2 租税ほ脱犯に対しては、租税法律主義と租税公平主義に照らして、租税債権侵害の程度、納税義務違反の程度を基礎に、ほ脱金額に比例した量刑がなされるべく、懲役刑と罰金刑が併科される運用がなされている。この罰金刑の併科は、犯人から相応の金額を剥奪することにより、不法利益の取得を目的とする犯罪行為が経済的に引き合わないことを強く感銘させることにあるとの基本的な考え方に基づくものと思料される(最判昭和二五年七月四日刑集四巻七号一一五五頁、最決昭和三一年一〇月九日裁判集一一五号四九頁など参照)。しかし、そもそも、量刑は、犯罪そのものに属する情状のほか、犯人の性格、年齢、境遇その他の犯人に関する情状、犯罪後の情状などを総合的に判断して決すべきものである。このことは一般の刑法犯だけでなく本件のような租税ほ脱犯の場合にも妥当すべき原則というべきである。

原判決は、被告人の現在の罰金納付の能力についての具体的な事情を十分に斟酌していないものと思われる。

3 近代における罰金刑は、自由刑ことに短期自由刑の弊害を避けるために発達したものである。一方、労役場留置制度は、元来、罰金の完納を強制するために制度化されたという側面もあるが、罰金はその支払い能力がない者にとっては執行が不可能な刑罰であるから、そのような者に対して、罰金に代えて自由刑を科すものとした制度である。つまり、労役場留置制度は罰金刑の換刑処分にほかならない。そうすると、罰金は自由刑の弊害を回避するために科されるべきところ、資力のない者は罰金刑が適当であるにもかかわらず、元来科されるべきではない自由刑に処せられるという矛盾したことになる。結局「自由刑の代替」である罰金刑の「代替」が自由刑にほかならないという皮肉な結果となっているのである。

ことに、租税ほ脱犯がほ脱行為が経済的に引き合わないことを強く感銘させることに罰金刑を併科する理由があるのならば、その経済的な利得を収奪することにこそ意義があるというべきであり、罰金納付の能力のない被告人に罰金の完納ができない場合に労役場留置を言渡すことには理由がないといえよう。このことは懲役刑について執行猶予を言渡しておきながら、罰金が完納できない場合には労役場留置となるというのではなおさらのことである。

このような労役場留置の刑罰としての不合理さを考慮すると、罰金を完納できない被告人を労役場に留置することは許されないといわなければならない。

4 本件において、被告人は罰金を完納できない場合、六〇日間労役場に留置される。

このような短期の自由刑は弊害こそあれ、罰金刑の換刑処分としての効果をあげるものではない。

周知のとおり、短期間の拘禁では、受刑者の改善に役立たないばかりか、むしろ施設内で他の受刑者から悪い影響を受け受刑者の性格を悪化させるおそれがあり、また一般予防効果も期待できないという弊害が指摘されているところである。

労役場留置は、懲役刑ではないにしても、行刑施設に付設された労役場において自由を剥奪し、作業を行わせるもので、懲役受刑者に準じた処遇が行われる(監獄法九条・三三条)自由刑である。したがって、労役場留置の言渡しには犯罪者の改善更生・社会復帰のための施設内での矯正教育がどの程度の期間必要かという考慮が不可欠であるはずで、その意味での刑の個別化が要請されるといえる。

このような観点から考えると、これまで安定した社会生活を営んできた初犯者を施設内に収容することは、たとえそれが短期間であるとしても理由があるとは思われない。そうであるからこそ、短期自由刑の弊害が論じられてきたのであろう。

本件において、被告人を六〇日間労役場に留置することは、短期自由刑の弊害として指摘されていることが妥当するばかりでなく、継続して事業活動を遂行する基盤を失うおそれもある。

二 被告人の反省と更生の意欲

被告人は、第二回公判において、不動産仲介業の仕事を今後も継続し、二度とこのような法人税ほ脱事件を犯さないことを誓約しており、ほ脱した未納付の法人税についても収入に即して返済することを約している(記録四七の八丁裏)。

したがって被告人には再犯の可能性はないと思われる。

被告人が社会内での更生の機会が与えられることが願われるところである。

三 結論

以上述べたところにより、原判決の量刑は、重きに過ぎ、刑の量定が不当であると思料するので、原判決を破棄し、罰金刑についても執行猶予を付されるよう求める次第である。

以上

別紙1

修正損益計算書

<省略>

別紙2

修正損益計算書

<省略>

別紙3

修正損益計算書

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

自 平成3年9月1日

至 平成4年8月31日

<省略>

自 平成4年9月1日

至 平成5年8月31日

<省略>

自 平成5年9月1日

至 平成6年3月31日

<省略>

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